Enoの音楽日記

人生、何があっても、音楽を聴くと、自分を取り戻します。

ミヒャエル・ザンデルリンク/N響

 ミヒャエル・ザンデルリンクがN響を振った。結果は期待以上の出来だった――と言うと、ミヒャエル・ザンデルリンクに失礼な言い方になるので、お詫びして撤回するが、そんな表現が思わず出たのは、以前ミヒャエル・ザンデルリンクの演奏を聴いたことがあり、あまり良い印象が残っていないからだ。それは2017年5月のフランクフルト歌劇場管弦楽団の定期演奏会で、プログラムはシベリウスの「フィンランディア」、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏はヴィクトリア・ムローヴァ)そしてベートーヴェンの交響曲第5番「運命」だった。そのときはオーケストラの反応が鈍かった。

 

 ところが今回は1曲目のブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲が始まったとたんに、N響の弦楽器の音がクリアなことにハッとした。フランクフルトで聴いたときのイメージとはまるで違う。それはオーケストラが違うからか、それともミヒャエル・ザンデルリンクが変わったからか。続いて入るチェロ独奏(ターニャ・テツラフ)も気合十分だ。それに続くヴァイオリン独奏(クリスティアン・テツラフ)も熱気にあふれる。わたしは一気に演奏に惹きこまれた。

 

 とくに感心したのが第2楽章だ。何度か現れる経過句が、おざなりにされずに、あるべき場所にきちんと収まる。そのような演奏を聴くのは稀のような気がした。

 

 この曲はブラームスの名曲のひとつだが、少なくとも実演では意外に名演が生まれにくい曲のように感じる。その原因はさておき、今回は久しぶりに出会えた名演だった。それはテツラフ兄妹の熱演もさることながら、ミヒャエル・ザンデルリンクがオーケストラ演奏を深く彫琢したためだと思われる。なおテツラフ兄妹はアンコールにコダーイのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲の第3楽章(抜粋)を演奏した。目にもとまらない速さで音楽が走りまわる。見事と言うしかなかった。

 

 2曲目はブラームス(シェーンベルク編曲)のピアノ四重奏曲第1番だ。演奏の基本は1曲目のオーケストラ演奏と変わらない。堂々と構えて、音を彫琢した演奏だ。指揮者によってはシェーンベルクの独自のオーケストレーションを強調する第3楽章から第4楽章にかけても、あえてそれを突出させずに、全体のプロポーションに収めた。第4楽章のコーダはテンポを速めて一気呵成に進んだ。その迫力は息をのむほどだった。

 

 全体を通してN響の音には張りがあり、音量が普段よりも大きめだった。大きな音が出ることが一流オーケストラの条件のひとつなら、ミヒャエル・ザンデルリンクはN響にその限界まで挑戦させ、N響はそれに応えた感がある。そうだとすれば、N響がミヒャエル・ザンデルリンクの力量を認めた証になるだろう。

(2026.5.24.NHKホール)